アイ・ラブ・ユーの先で
銀河くんの言っていたこと、
実の父親があまりよくない人だとか、
前の苗字を思い出したくもないとか。
「……この世のゴミをかき集めて、詰めこんだような野郎だよ、俺の父親は」
それを、先輩がいったいどんな思いで語ったのか、想像もできない。
「母親と、ちゃんと籍も入れてなかった。学生のころからの付き合いらしいけど、わかりやすくいえばヒモで、ずっと母親が養い続けてたんだと。挙句の果てにガキまで孕ませておきながら、片親になったあとはろくに育てられもせずに、このザマだもんな」
先輩はそう言いながらたしかに笑ったけど、いままでに見せてくれたどの笑顔ともまったく違っている、とても冷たい瞳をして、どこか遠くのほうを眺めていた。
「まあ、さっさと堕胎しないで、そんな男の子どもを無理に産んだ母親もどうかと思うけど、俺は」
それは、先輩のことだ。
そんな男の子ども、と、先輩はいま、自分自身にむかって言ったのだ。
まるで、自分の存在そのものを否定しているような響き。
咄嗟にシーツの上に膝を立て、ふり向いた。
たまらず、まだ少し濡れている髪を、かき抱いた。
「正直、恨んだよ。特に母親が死んでからは毎日本当に地獄だった。父親は気に入らないことがあれば俺に暴力をふるったし、ろくに食わせてももらえないで、死んだほうがマシだと思いながら生きてた。こんなんなら、いっそ生まれてこなけりゃよかったと思った」