アイ・ラブ・ユーの先で


うだるような夏をなんとか越え、それぞれの新しい学期がはじまっている。


阿部家でなにか変わったことといえば、
兄が、大学進学から専門進学へ完全にシフトチェンジしたこと。

妹が、早退や遅刻、保健室登校をくり返しながらも、自分なりに学校へ通いだしたこと。


真ん中のわたしは1学期と変わらず、いま目の前にあるものをこなすのに精いっぱいだけど、少しずつ慣れてきた高校生活をそれなりに楽しめてきたような気もする。


「ええーっ! 夏休み、奥先輩と3回も会ったの!?」


いや、それなりどころか、けっこうしっかり楽しんでしまっているかも。


「シーッ、ちょっと佳月、声大きいよ! まわりに聞こえちゃうじゃん!」


そう言われても、そんなビッグニュースを聞きながら落ち着いていろというほうが、ちょっと無理があるわけで。


「え、だってそれ、完全に脈アリのやつでしょ」

「絶対そんなことないの! ウチがなんとかして無理やり誘ったのばっかりだし……」


夏休み前よりワントーン明るくなったように見える、オレンジ系のブラウンヘアー。

それをウェーブがかったゆるいポニーテールにまとめあげた、今学期もトコトンお洒落な結桜が、しゅんとした横顔で下駄箱からローファーを引っぱりだした。


休みのあいだに好きな人と3回も会えたというのにこの顔である。

わたしが思っている以上に、ものすごい勢いで奥先輩への片想いが加速しているんだな、と、えらそうにも微笑ましい気持ちになってしまった。

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