アイ・ラブ・ユーの先で
「水崎の家がそういうふうなんだよ。引き取られた当初、腐ってたところにとにかくうまいもんばっか食わせてもらって、腹が満たされるってのはすげえことなんだな、って思い知った」
だから、考える前にとりあえず食う、なんかあったらおまえもとりあえず食え、と。
話はそれからだと、かつてお腹を空かせてぼろぼろに傷ついていたはずの少年は、すべて満たされたような顔で得意げに笑った。
「いいから、早く決めろよ。決められないなら全部注文しろ」
昂弥先輩なら本気でそうしかねないので、あわてて日替わりパスタのみオーダーする。
やってきたものをそれぞれひと口ずつ交換しながら、ゆっくり、他愛もない話ばかりをした。
「そういえば、結桜と奥先輩、なんだかんだでいっしょにどっか行っちゃいましたね」
「女子がふたりいて澄己だけ置いてけぼりになるのは、たぶん史上初の快挙だろうな」
友人との別れ際、すねた顔でスマホを取りだし、すぐさま女の子に連絡をとっていた佐久間先輩を思い出す。すごく申し訳ないのだけどつい笑ってしまいそうになる。
「奥先輩ってどんな女の子が好みなんですか?」
「さあ。そういや、そういう話は一度もしたことがなかったな」
「ええっ、男の子ってそんなもんなんですか? ちなみに、これまで、彼女がいたことなんかは……」
「ないことはないんじゃねえの。よく知らんけど」
秘密にしているふうでなく、本当に知らなさそうな顔。
普段この人たちはいったいなんの話をしているのだろう、と疑問に思って、奥先輩の寡黙な雰囲気と、昂弥先輩の多忙なスケジュールが脳裏をよぎり、もしかしてなんの話もしてないのでは、とひとりで苦笑せずにいられなかった。