アイ・ラブ・ユーの先で


「そういう佳月はどんな男子が好きなの? ていうか、そっちこそ、すでに彼氏いたり?」

「ぜんっぜん! いないどころか、恥ずかしながら、いままで誰ともつきあったことすらないし……」

「ええーっ、意外だね!」


そうかな。けっこう見た目どおりだと思うんだけどね。

でも、わたしが結桜を見て勝手なイメージをいくつか持っているように、他人から見たわたしの評価なんてのは、死ぬまで自分には絶対にわかりえないものなのかもしれない。


「好きになったコは? これまで、誰かいた?」


じわ、と。体のどこかがほんのり熱を帯びていくのがわかった。


こういう質問を投げかけられたとき、真っ先に浮かんでしまう人が、ひとりだけいる。

近所に住んでいる幼なじみの男の子でも、小学生のとき隣の席になった同級生でも、会うたび優しくしてくれるお兄ちゃんの友達でも、中学時代よく懐いてくれた後輩でも、誰でもなく。


「たぶん……いた、と思う。いままでに、ひとりだけ」


幼いころ1週間だけ入院していた病院で、出会った男の子。


結桜が小声で悲鳴みたいなのを上げた。

いったい誰なのかと聞かれて、べつに隠しておきたい思い出でもないので、本当に久しぶりに記憶の蓋を開けた。

それは、わたしにとってなにより大切な、宝物の箱。


隠しておきたいわけじゃないのは本当。

でも、お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、侑月も、家族の誰も、たぶんいまだに知らないでいることだ。

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