アイ・ラブ・ユーの先で
夜の闇を照らしているまんまるを、彼は窓辺から動かず、じっと見上げていた。
「月とスッポンって慣用句、おまえも知ってるだろ」
「え……」
「相容れないんだよ。どっちも丸くて、一見よく似てるけど、実はぜんぜん違う。おまえと俺は、それだった」
淡々とした声が紡いでいくのは、たしかな決別の言葉。
「生きてる世界が違うんじゃない。そもそも生まれが違うんだ。はじめから、流れる血の種類が、違ってたんだよ」
そうやって、いつも、ずるい言い方をする。
あの花火大会の夜だって同じだった。
それならいっそ、もう二度と顔を見せるなと、この場からすぐに消え失せろと、はっきり言ってくれたほうがずっといいのに。
でも、先輩がそう言わないのは、わたしを傷つけたくないからじゃない。
きっと、そんなふうには、上手に言えないだけ。
昂弥先輩はあのころとなにも変わらない、優しいさとくんのままだということ、わたしはちゃんと知っている。
「おまえは正常な思考回路をしてるよ。あのとき、怖いって、ちゃんと思っただろ。それは絶対に正解だから安心していい」
先輩はやっとふり返った。
目尻にはいつもの穏やかな皺が刻まれているけれど、彼はもう二度とわたしの名前を呼ぶつもりはないのだと、ひと目でわかった。
「……だから、もういっしょに、いられませんか?」
「いないほうがいい。おまえも、もうわかってるんだろ」
「ぜんぜん、わからないです」