アイ・ラブ・ユーの先で
小学校に上がってはじめての冬、たぶん年明けすぐくらいだったと思う。インフルエンザを見事こじらせて、大学病院に入院したことがあった。
そこまで大げさではなかったけれど、緊急入院だったので、家族の誰も不測の事態に備えてなんかいるはずもなく。
当時、役職に就いたばかりのお父さんは仕事を休むこともできず、お母さんはまだ幼かった侑月を放ってわたしに付きっきりになるわけにもいかず、お兄ちゃんもまだ小学3年生で妹の世話をできるほどでもなく、わたしはほとんど、ひとりで病院に放置されっぱなしでいた。
そういう状況をお医者さんも気遣ってくれたし、看護師さんもきっとわたしをかわいそうに思って、たくさんかまってくれた記憶がある。
おかげで体はあっというまに元気になった。
それでも、7歳のわたしは、家族の不在をどうしようもなく寂しく思ってしまっていた。
体が多少回復してからは、それをまぎらわすかのように、病院のいろんな場所を徘徊した。徘徊しながら、あのわけのわからない涙を流していたこともあった。
そうしている途中で、その男の子と、出会った。
彼は、母親がこの病棟に入院していて、お見舞いのために毎日通っているのだと言った。
むずかしい病気、病名は忘れたけど、それをわたしに告げながらとても悲しそうな顔をしていたから、いま思えばもしかしたら助かる確率のかなり低い病気だったのかもしれない。
彼も、わたしとは比べられないほどの大きな寂しさを抱えていたのかもしれない。
退屈で殺伐とした病院のなかで出会った、お互いにとって唯一の友達。
わたしたちは、決まって病院の売店の前で待ち合わせしては、わたしが退院するまで4日間、ずっといっしょに過ごしたのだった。