アイ・ラブ・ユーの先で
「ひゃあ、すっごい素敵な初恋!」
いつのまにか空っぽになっているお弁当箱の蓋を閉めながら、結桜が長いまつげを上下させてまばたきをくり返した。
「なんか、長々と語っちゃってごめん」
「いいよう。聞きたがったのはウチだし。ていうか、なんならもっと詳細聞きたいくらい!」
語れるものならわたしもぜひそうしたいけど、いかんせん当時7歳、9年もたてば脳細胞がすっかり入れ替わっているのか、悲しいことに、本当に詳しくは覚えていないのだ。
「いま、その子、どうしてるんだろうねえ」
「どうだろうねえ。だいたいの住所とかもぜんぜんわかんないんだよね。ちゃんとした年齢も……。聞いたのかもしれないけど、ほとんど忘れてて」
「同い年くらいなの?」
「ううん、ちょっとだけ上だった気がする。ふたつ上に兄がいるんだけど、お兄ちゃんと同じくらいだなあと思った記憶があるから」
そうかあ、と結桜が考えこむような顔をした。
「もし、もしね、もしさ、うちの学校の先輩とかにその子がいたら、それって本当に運命だよね!」
そんなおとぎ話のようなミラクルが起こればどんなに素敵だろう。
でも、平凡な人生においてミラクルはあまり起こらないということ、もう高校生だ、なんとなく理解できている。
「ほんとになにも覚えてないの? 名前とかも?」
「名前ね、聞いたはずなんだけど、どれだけがんばってもずっとフルネームが思い出せなくて」
「断片的にも?」
結桜が本気であの子を探しだそうとしているのがヒシヒシ伝わってきて、ちょっと笑ってしまった。