アイ・ラブ・ユーの先で
だけど、姉的にはそんな仮説よりも、ずっと能天気そうにマイペースに生きてきたうちの末っ子が、そんなことを気にするほどまで大きくなったのかという事実のほうが、大きな感動だった。
「3年間ずっと使うんだよ? ぜったい好きなやつのほうがいいと思うけどなあ、わたしは」
「ええー……お姉ちゃんの学年、こんなの使ってるコ、いた?」
「いたよ、ふつうに。誰もそんなの気にしないよ」
「それはお姉ちゃんが優しいから気にしてなかっただけじゃない?」
その評価は完全に間違っている。
少なくともその件に関してだけ言えば、わたしは優しいから誰の持ちものも気にしていなかったのではなく、お兄ちゃんのお下がりを使っている自分を恥じていたから、ほかの誰のことも気にしないようにしていただけで。
いや、むしろいまのは、誰もわたしのことなんか気にしないでくれ、という祈りをこめて言っただけのことかも。
「うん、じゃあ、きーめた。お姉ちゃんがそう言うなら、侑月、好きなの買おうっと」
やがてうれしそうに声を上げた妹が、手を伸ばしてわたしの机からサインペンを引っつかむと、チラシの上にいくつかのマル印をつけていった。
侑月の三大好きなもの。
パステルピンク・リボン・キラキラ。
選んだのはすべて、そのぜんぶが詰まったようなデザインのもので、ほっと安心してしまうのはたぶん、姉心。
かわいい妹には、いつまでも変わらないで、かわいい妹のままでいてほしい。
わたしができなかったすべてのことを、侑月は叶えながら、生きていってほしい。
小さな頭にちょんまげを作っている、侑月の大好きなブランドの新作のヘアゴムを眺めながら、嘘じゃなく、本当に、そう思った。