アイ・ラブ・ユーの先で


たいして飲みたいとも思っていない紙パックのレモンティーを買い、すぐにストローをさして吸いながら、学校までの道のりを引き返した。


海沿いの一本道。

毎朝、毎夕、ずいぶん履き慣れてきたローファーでなぞるたび、水崎先輩のことをなんとなく思い出してしまう。


あれから一度もあの黒いバイクを見かけないな。

バレたら停学では済まない、と言っていたから、学生の多い時間帯にわざわざ学校の近くで乗らないでいるのは当然のことか。


あの日はどうして、この場所を通ったのだろう。

わたしが同じ高校の制服を着ているとわかっていながら、どうして声をかけてくれたのだろう。



少し遠い場所で寄せては返す、青い波はどこか神秘的に揺らめいていた。


この景色を眺めるのが日課になりつつある。

いまはまだいちいち感じてしまう感動も、ローファーのようにちょっとずつ体になじんできて、なんの変哲もない、見慣れた景色に変わってしまうのかもしれない。


早く大人になりたいと思っている。

いつまでも子どものままでいたかったとも思っている。


子どもでも、大人でもない。

わたしは、兄でも、妹でもない。


いま、わたしは社会のどの位置にいて、なんの意味をもちながら、惰性のような呼吸をくり返しているのだろう。

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