アイ・ラブ・ユーの先で
「……いや、ていうか」
「なに? 聞こえねえ」
絶対にわたしのほうが頑張って声を出したはずだ。
彼の耳が異常に悪いのか、それとも、わたしの耳が異常に良いのか。
ぜひとも決着をつけたいところけど、いまのわたしにそんな茶番を繰り広げている時間など一秒たりとも残っていない。
いかついバイクにピッタリくっついて並走されようが、涼しげに話しかけられようが、いきなりオマエと呼ばれようが、大声でしゃべらされようが、なんだろうが、スピードを緩めないで走り続けなければならないのだ。
「ていうか! あなた誰ですか!」
「同じ高校の生徒だよ」
え、と漏れた力ない声は、コンクリートを這って気管を震わせてくる低音によって、見事かき消されてしまった。
「このままチンタラ走ったところで式には間に合わねえな」
だから諦めろ、とでも言いたげなせりふだ。
言い返したかったけど、同時に彼の手が両方のハンドルを強く握りしめたので、それは叶わなかった。
黒の車体がゆるゆると速度を失っていく。いまは休んでいる暇などないはずなのに、つられて、わたしも足を止めてしまう。
「おまえもわかってるんだろ? 間に合うわけないって」
「な……!」
「だから泣いてるんだろうがよ」
頬に存在しているべりべりとした感触。これは決して潮風のせいではないこということ、いちいち触って確かめなくともすぐにわかる。