アイ・ラブ・ユーの先で
べつに、諦めたから泣いているわけじゃない。
諦めたくないから、泣いているのであって。
「べつに、泣いてなんか……!」
今朝おろしたばかりの、サラピンの制服の袖でゴシゴシ頬を擦った。
「こんなことで泣くなよ。ガキじゃあるまいし」
慰めてくれているのか、鼓舞してくれているのか、ただおもしろがっているだけなのか。見当もつかないけれど、次の瞬間、たしかに彼の口角が上がっていくのを、わたしは見た。
なに笑ってるんだよ、と文句を言いたくなる前に、そのくちびるはゆっくり動きだしたのだった。
「俺が間に合わせてやろうか?」
「……はい?」
新手の脅しかと思って身構える。身構えた手のひらの上に、ずっしりと重たい球体を放りこまれる。ヘルメット。
「四の五の言わずにかぶれ」
「……うしろに、乗れと?」
「初日から遅刻したくないならな」
そうだ。いまはもう、背に腹は代えられない。
どうしてこの人が親切にしてくれるのかわからない。あとからなにかとんでもない脅迫をされるのかもしれない。きっと、なにかしら裏があると思う。
それでも、もとはと言えば自分がやらかしたことだ。
なにがあろうと自分でなんとかしなければならないのだ。
意を決してヘルメットをかぶった。想像以上に重たくて、首ごと落ちるのではないかと怖くなった。