アイ・ラブ・ユーの先で
「いつまでしがみついてんの」
あまりにも非現実な速度から、なかなか現実に戻ってくることができないでいたら、前方の運転手になかば呆れたように声をかけられた。
「え……」
「ついたけど、学校」
「えっ」
降ろされたのは学校の裏門……から少しだけ離れた場所にある、ひっそりとした公衆電話の陰だった。
「あ……ここで?」
ずうずうしくも正門の前まで送ってもらえるものだとばかり思っていたので、拍子抜けしてしまう。
「悪いな。単車乗り回してんのバレたらこっちは停学どころじゃ済まないんだよ」
「あっ……そりゃそうか、すみません」
「それより、時間」
はっとしてポケットからスマホを取りだす。8時45分。いまから向かえば余裕で間に合う!
逆に言えば、あのまま走り続けていたとしても、確実に間に合っていなかったはず。
「あの、本当に……ありがとうございました。本当に、助かりました」
頭まで下げて、こっちは本気の感謝をしたというのに、かたちのいい薄いくちびるは、またゆるやかに口角を上げたのだった。
「もうしょうもないことで泣くなよ」
ああ、そういえば今世紀最大にみっともないシーンを目撃されてしまったのだった。恥ずかしい。
「それは、もう、ぜひ忘れていただいて……」