恋化石(仮)
…1…

ex.1






「お前、処女だったのかよ……」





 まだ事態を飲み込めていない。



わかるのは、向かい合った男女が一糸纏わぬ姿であること、

そして、ベッドのシーツに赤みを帯びた染みをつくっているということだけ。



















 その日、橘柚衣子(たちばな ゆいこ)は同僚と酒の席を共にしていた。



忙しさの峠を越え、一つの仕事をやり遂げて、祝杯をあげていたのだ。

度重なる会議、追われる時間。

苦楽を乗り越えた数か月間は、互いのことを知るいい機会となっていた。





 グラスの重なる軽快な音、ごくごくと喉を鳴らして吸い込まれていくアルコール。

お酒はあまり強くはないと自覚こそあるが、場を壊さないためにも数杯の酒を流し込む。




 お酒の席は好きだ。

社内での行き詰った眉間に皺を寄せた顔ではなく、無礼講とばかりに綻んだ表情が拝めるからだ。

雰囲気に流されていると言われても、なんら弁解はできないが、穏やかに、また陽気に流れる時間がたまらない。




「柚衣子のおかげで無事間にあったよ〜! ありがとうね」



 にこにこと顔を綻ばせているのは、企画部の清水茉莉花(しみず まりか)。

同期入社の女性社員だ。



柚衣子の四人の同期入社の社員は、バランス良く男女比が一対一。男女共に二人ずつ入社した年だった。

入社して早六年。

誰も辞めることなく勤めてこれたのは、度々こうして集まって、弱音を吐き出せることが大きい。




仕事の出来や忙しさに追われる中でも、人間関係が上手くいっているのが、柚衣子にとっては一番満足していることだ。

最も、今日のお酒の席には、同僚は茉莉花しかいないのだが。


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