恋化石(仮)
千鳥足ではない。
頭もはっきりしていて、記憶が飛びそうな気配もなく、ただ眠いだけ。
始発まではまだ時間があるが、道路で寝るわけにもいかない。さすがに分はわきまえているつもりだ。
「大丈夫です。でも起きていられる自信がないので、カラオケにでも行こうかと……」
すみません、と断りを入れると、不服な目が柚衣子を襲う。
一人で飲ませるなんて、どういう気だ、という目だ。
仮にも先輩、誘っておいてもらってそれはない、というのは理解できるのだが、さらなるリスクを回避するためには仕方がない。
十分もかからずにいける場所にあるカラオケ店を目指そうと立ち上がると、不意に匡輔が引き止める。
金曜日のしかも、深夜。
迷惑もかかるが、それよりも混雑していて、一人でフリータイムは断られる可能性がある、と。
どうしよう、と体を椅子に預けると、規則的に喉を鳴らす匡輔のリズムが、さらに眠気を誘ってくる。
——気づけば、深い眠りに落ちてしまっていた。
シャワーの細やかな水しぶきの音が耳を掠める。
自分の家とは比較し得ぬほどに、やたらに大きなベッド。
寝返りを二回にしても落ちないくらいの大きなベッドは、沈み込みすぎない程よい堅さ。
疲労が溜まっていたこともあり、再び眠りについていた。