恋化石(仮)
「寝るときくらい上着脱げよ」
お粗末な柚衣子の姿を目にしたのは、匡輔だった。
引き止めたまでは良心であったが、自分の二年後に入社してきた年頃の女は、人目も憚らず眠りについている。
まさか店内で寝るとは思わなかったため、ホテルまで連れてきたのは本当に計画性がないことだった。
少ない人数の部署に唯一の女性社員のためか重宝されているのは、自覚しているのかはわからない。
今の時代は必ずウェブ媒体を使用して宣伝するため、不特定多数が目にするホームページは必要不可欠な重要なツールである。
企画を詰めてようやくウェブの部署に回る。
そのため、後手後手になって悲鳴をあげて仕事をするのが柚衣子の部署だ。損な役回りだなと思う。
上手くできて当たり前、納期厳守と企画に罵られている光景は、目も当てられないときもある。
よほど疲労が溜まっていたのだろうか。ずいぶん深い眠りについているようだ。
店にいたときから、身体を揺さぶっても、頬を軽く叩いても、何をしても一向に起きる気配がない。
寄りかかって身体を支えるなど、もってのほか。
腰をやってしまう歳の男が、平均ほどの身長のある、歩く意思を捨てた女性をおぶってやったのだから、褒美の一つでも欲しいくらいだ。
まだ汗ばむ季節が身体に熱を帯びる初秋。シャワーを浴びてベッドに腰かけても起きる気配はない。
「しかし童顔だな、こいつ」
目元に張りついた前髪に指で触れると、むにゃむにゃと声にならない寝言を言っている。
いい歳のくせにつるんとしている顔に、眉間に寄せた皺が目立っていて、ふと笑みが漏れる。