恋化石(仮)
 新規のアニメのDVD化に伴って、ゲームの開発やグッズなどの計画が勧められていたのだが、ようやくそれが、一段落したところなのだ。解放感も相まって、少し、飲みすぎた気がしている。しかしながら滅多にお酒を飲む機会のない先輩方がいることで、浮かれてしまっているのかもしれない。
 茉莉花の他に、卓を囲む男性が二人。企画の伊吹匡輔(いぶき こうすけ)と、広報の朝倉泉月(あさくら いつき)だった。会社でも共に一目置かれる存在なのは、やり手の業務成績に加え、その容姿端麗な姿だろう。スタイリッシュさを醸し出す匡輔は、センスの固まりとさえ称されているし、泉月においては、特徴的な言葉使いが存在感を増していた。
「ううん。本当に間にあってよかったよ〜。私ももう間に合わないかと思って」
「柚衣ちゃん社泊して頑張ってたものねえ。えらいわあ」
 頬に手を当てて喋る素振りが、まるで女性のようだ。
 泉月のこの話し方や仕草を目にしたときは、驚いたものだ。テレビでよく見るオネエタレントと称されるものと瓜二つで、会うたび話すのが新鮮だった。男性にしては長い髪の毛が、女性らしさを強調している印象だ。そしていわゆる甘いマスク。物腰も柔らかくて、数少ない話しやすい男性社員として認定されている。
 例に漏れず柚衣子もそのように感じており、社内などの人目が気になる場所では朝倉さんと呼んでいるものの、気の置けない人らが集まったこういった席ではいっちゃんと呼べるほどには仲がいい。かと言って特別な呼称ではない。同期や先輩の女性たちは、皆一様にいっちゃん、と、可愛いあだ名で呼んでいる。
「橘が修正なんかしなかったら、もっと早く終わってたけどな」
「……あれは、もっと画像を多くしたほうが見栄えがよくなると思って……」
 泉月の話した後だと、冷たいというべきが、素っ気ないというべきか、些か乱暴な言葉使いに聞こえるのは匡輔だ。洗練された印象は全く裏切ることなく、後輩から羨望の眼差しが向けられている。……主に女性からのものではあるが。
 髪の毛も今時の男性、といった印象で、シャープな顔立ちは、女ながら羨ましくもある。ここまで整っていると、人生薔薇色だろうな、なんて考えるほどに。
「ま、妥協しなかったのは褒めてやる」
「もう、匡輔ってば。その言い方はだめよ!」
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