恋化石(仮)
お酒にあまり強くないとは、あまり口にすることはない。
ぶりっこしていると思われるのが嫌だからだ。
昨今はセクハラ、パワハラの次くらいにアルハラが問題になっているのもあって、酒に弱いと聞けば、なかなか飲みに連れて行ってもらえないこともある。
自分からは誘える人が限られているからこそ、間口を広く開けて置いて、いつでも行けますよ、と臨戦態勢を整える必要がある。
千鳥足で帰る足がおぼつかないだとか、昨日の記憶がないだとか。
そんなのは、酔う感覚さえ未知の世界である柚衣子には、恐ろしいとさえ感じられる。
記憶がないとか、恐ろしい、なんて怯えているけれど、どんな感覚なのかは、生きているうちに、一度くらいは経験してみたいものだ。
笑い上戸や、泣き上戸、怒り上戸など、知識としては知っているものの、酔うというよりは、多量のアルコール摂取をすると、主に嘔吐の体調不良へまっしぐらな柚衣子にとっては、周りの人の話を聞けるだけでも貴重である。
「そういえば、茉莉花ちゃんは彼氏とはどうなのかしら」
女子会ノリをヒートアップさせたのは、やはり恋愛の話だった。
二十八という歳になってからは、誰に言われたわけでもないのに、恋バナ、なんて可愛い言葉は気恥ずかしくて言えなくなってしまった。
それどころか、恋愛の話になると、好きだとか彼氏だとか、そんな話ではなくて、結婚とか旦那とか、そんな話になることの方が多い歳。
既に仲のいい友人は半分以上が結婚をしている。
未婚であっても、茉莉花のように同棲している彼氏がいる人のほうが多いわけで、なかなかに肩身が狭い。
「それがね〜、なかなかプロポーズしてくれないの! 自信がついたら、とか、収入が、とかさあ〜」
既にほろ酔いを超えてしまった茉莉花は、待ってましたと愚痴を漏らしている。
この話は既に同期の中には知れ渡っているものだから、ここぞとばかりに泉月を巻き込もうとしているのに、笑みが漏れてしまう。
「あら、やあね! そんなの結婚しちゃえばなんとかなるわよねえ」
「だよねえ! 私もそう思うんだけどさあ」
頬杖をついた茉莉花は溜息を吐いていた。
ずっと聞いていたから、茉莉花の気持ちもわかる。
女性の、しかも年頃の人から「結婚」という言葉を口にするのは、気が重い。
万が一にでも懸念される材料は、遠ざけたいのが普通だろう。