恋化石(仮)

 仮にふられでもしまったら、立ち直れないわけではない。



男性に比べて立ち直りが早いイメージは、実際間違いではないようだ。

しかしながら「彼氏」はできても、「旦那」になるかはわからないから、と口酸っぱく言っていたから、尻込みするのも当然だ。



「こっちから言うわけにもいかないしさあ……」



 口を尖らせた茉莉花は、拗ねた姿を隠しもしようとせず、テーブルに頬を乗せていた。

目が潤んでいて、顔もわずかに赤くなっている。こんなに可愛らしいのだから、ふられたりする確率など皆無にも思えるが、一度拒否されたら、もう終わりに等しいという愚痴が、同姓ながらにグサグサと突き刺さる。



「だあいじょうぶよお! ザクシイ置いときなさい、ザクシイ!」

「えー。あれ一人で買うの勇気いるよ〜」



 気落ちした茉莉花を元気づけるべく、泉月があれやこれやと焚きつけている。

二人のテンポのいい会話を聞いて、柚衣子はふと妙案を思いついた。





「……もしくはデキ婚狙うとか?」



 冗談めいたアドバイスは、笑顔を浮かべて言ったはずだ。

空気を良くしようとする、リップサービスのようなものだったはずだったのだが、辺りは静まり返っている。





 あんなにも豪快に酒を流し込み、笑顔を浮かべていた二人が真顔になっている。

その静寂がどうにも気まずくて、煙草に火をつけようとした、そのとき。



「それだよ!」

「いいじゃない!」



 あれほど小さな頃から、人に指を指すなと叱られたはずなのに、ピンと沿った人差し指が二本、柚衣子に向いている。

驚いてしまい、右手に持ったライターは下を向き、火をつけるために噛んだ煙草は口から零れている。



 目を丸くして身体を強張らせた柚衣子に、乾杯と号令が掛けられた。



「柚衣子ちゃん頭いいわねえ! いいけど、う〜ん」

「そー、いいけどねえ。モラルが欠けた気がして、なんかね……」



 失態を犯したと思っていたが、そうではなかったらしい。

そっと反応を窺い見ると、腕を組んだり首を捻ったりして、考え込んでいるようだった。





 結局茉莉花の悩みには打開策を見つけられないまま、再びお酒を飲みだした。

あまりに茉莉花のお酒を飲むペースが早くて、何度か泉月に制されていた。

水を頼んでも「や」と突っぱねるばかりで、泉月の制止を受け入れようとはしない。



 そんな茉莉花に苦笑いをしながら、ちょびちょびとマイペースに酒を口に運ぶ。マイペースに場を楽しむ柚衣子に、目の据わりだした茉莉花が刃を向ける。



「そういう柚衣子は彼氏できたのかよ〜」



 面白半分に言った言葉は、にこにこと笑みを浮かべて受け流した。

如何せん、泉月がいる前でその話をするわけにはいかないのだ。



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