恋化石(仮)
柚衣子は二十八歳でありながら、恋愛経験が極端に少ないのだ。
つき合った人は、中学のときの一人だけ。
それも、若かりし頃にありがちな自然消滅というもので、「別れよう」という言葉もなく、どれくらいつき合っていたのかも定かではない。
中学までは、共学だったが、高校からはずっと女子校だった。
別にお金持ちのお嬢様ということではない。
私立という文字は柚衣子の家庭には皆無で、小学校から大学まで、見事なまでに国公立。
勉学に励んだ努力の賜物だとは自負しているが、なにぶんそこに力を注ぎすぎた。
気づけば男性との付き合いは断絶されていて、部活に励んだ高校とは打って変わって、上京した女子大に入学しても、何ら変わり映えのしない生活だった。
大学に入って始めたバイトは居酒屋だったからか、男性の従業員も数多くいた。
けれど、同じ仕事をして信頼関係を築くだけで、それ以上には発展はしなかった。
女子校にいることなど関係なく、彼氏がいる子はたくさんいた。
けれど、なぜか柚衣子には彼氏ができない。
積極的に男性と話してみようと意気込んだときに、気づいてしまった。
あまりに女子校での居心地が良すぎたのか、異性の友人の作り方を忘れていた。
話すことには、話せる。
どちらかといえば内気なほうに分類される柚衣子でも、仕事と思えば男性と気兼ねなく話すことができる。
なのに、バイト先から一歩出た途端、接し方がわからなくなるのだ。
肩を並べて駅まで帰ることはあった。
バイト先のシフトを組むためにも、何人かの男性と連絡先を交換した。
当たり前のことだけれど、それを口実にして連絡を取り合って、デートにこじつけるなんて発想すらなかったあの頃の自分に檄を飛ばしてやりたいものだ。
そのおかげで、子どもが何人かいる友達がいるアラサーにして、未だ守りたくもない処女を捨てられていないと言ってやりたい。
重いどころの話ではない。
話にすらならないのだ。
中学のときにつき合っていた彼氏は一人しかおらず、手を繋ぐことすらままならない記憶しかない。
手は繋いだ。
キスも、たどたどしく唇が触れるものしかしたことがない。
それも、片手で足りるほど。
恋愛の話につきものの、今までの彼氏の人数とか、経験人数とかは、八人つき合ったことがあるのを三人と言う人がいる中、歳を考えて一人を三人とかさましする人の気持ちなんて、きっと一握りの人数にしかわからない。
例えば、なんてまるで誰かから聞いたみたいに話したことがある。
けれど、三十路間近でそんなことありえない、なんて口を揃えて言うのがストレスだ。