恋化石(仮)


 触れた手は、顔を包み込んでしまいそうなほど大きくて、柔和な話し方との不釣り合いあいなところが好感触だった。



「そんなこと言うんなら、いっちゃんがもらってよー…」



 見え透いた冗談ではあったが、半ば本心ともとれる柚衣子の拗ねた態度にも、泉月は臆することなく応じてくれる。








 女二人が突っ伏して、羞恥を晒した部屋に、煙草を持った匡輔が入って来た。



「なんなん、これ」



 呆れたように、どかっと泉月の隣に腰を下ろした。


「恋バナよ」とお茶目に言ってみせる泉月すら羨ましい。

いいよな、綺麗なオネエさんは、言葉選びさえも可愛くて、なんて、机に額を押しつけた。



「私だったら柚衣ちゃんなんてぺろりよ」



 人差し指を頬に当てて首を傾げる泉月に、「……下ネタか? 全然恋バナなんかじゃねえじゃん」と、匡輔が突っ込みを入れていた。




 女性らしさを感じられない酒の席に、匡輔は溜息を吐いている。



「お前らさあ、部長がいるときにそんなべろべろになんなよな」

「すみませーん」



 茉莉花の気のない謝罪に、匡輔は眉間に皺を寄せている。


 一見冷たく聞こえる物言いも、上司には不快にさせる失態も、自分だちの前であれば見逃してくれるという意味合いにとれて、思わず笑みが漏れた。








 他の三人に比べたら、それほど飲んではいない柚衣子は、記憶もはっきりしているし、しっかりとした足取りだ。

気の置けない同僚の輪の中で、あれから再び酒が進んだ茉莉花は、既にべろべろになって、泉月に肩を支えられていた。




 店を出た途端、絡みだした茉莉花には苦笑したものの、おぼつかない足取りで、帰りはタクシーにするようだ。

手を挙げて、タクシーを止めた泉月が茉莉花を車に乗せると、そのまま途中まで同乗していった。



「俺らも帰るか」



 そう言って、駅まで歩き出した匡輔に、柚衣子は慌てて後ろをついて行く。

会社から最寄りの駅に着くと、互いの電車へ乗るために歩みを進めるため、改札に定期をかざそうとしたとき、柚衣子の顔が青ざめていた。





「どうしたよ?」

「すみません。定期忘れてきちゃいしました……」




 カバンの中から目を放し、匡輔に視線を移せば、呆れた顔をしている。



 もう終電だ。

これを逃せば数時間彷徨うことになってしまう。



幸い近場に早朝まで営業しているファミレスもある。

始発までの時間、ずっと時間を潰すことはできないが、外に座り込むよりずっといい。


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