漂う嫌悪、彷徨う感情。

自分が辛いからって、何をのうのうと日下さんに寄りかかろうとしているのだろう。 日下さんの迷惑を全く考えずに、何をしているのだろう。

日下さんだって仕事中のはずなのに。

ポケットにしまおうとしていた携帯が、手の中で震えた。

画面には『日下さん』の表示。

律儀な日下さんが、掛けなおしてきた。

電話をしてしまった事を謝ろうと、通話ボタンを押して耳に当てる。

『てか、ワン切りて』

仕事中の迷惑電話にも関わらず、電話の奥で笑ってくれる日下さん。

「・・・すみません。 押し間違えました」

泣いている最中だった為、普通を装っていても声がブレる。

『仕事中に間違い電話て。 つか、仕事中なら普通LINEのメッセージの方でしょうよ。 重ね重ねの間違いが激しいわ』

「日下さんも仕事中ですよね。 本当にすみません。 仕事、戻ってください」

陽気な日下さんのツッコミに、泣いている事を心配させない様に、声を震わせない様に返事をして早々に電話を切ろうとしたが、

『美紗ちゃん、バレてるよ。 泣いてるでしょ?? 電話、美紗ちゃんから掛かってくる事はないんだろうなって思ってた。 美紗ちゃんから掛けて来たって事はさ、何かあったんでしょ??』

日下さんにはアッサリ見透かされていた。
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