漂う嫌悪、彷徨う感情。
--------美紗の実家からの帰り道、携帯を手に取り電話を掛けた。
『・・・散々シカトしておいて、そっちから掛けてくるとは思わなかったわ。 お兄ちゃん』
電話の相手は諸悪の根源、真琴。
「オマエ、美紗と和馬に恥かかされたからって、会社辞めたりしてないだろうな??」
真琴からのメールには『和馬と美紗が嫌がらせの様にやって来た』と書いてあった。 2人はきっと、恋人同士を装って真琴の職場に行ったのだろう。
『あんな事されて、みんなに可哀想で痛い人間扱いされて、本当は一刻も早く辞めてやりたいわよ。 でも先月、鞄買うのにボーナス払いでカード切っちゃったから、辞めるに辞められないのよ。 ホンットにタイミング悪いよね、お兄ちゃん。 美紗を家に連れてくるなら、鞄買う前かボーナス出た後にして欲しかったわ!!』
相変わらず自分勝手な妹。 ほとほと呆れる。
「真琴はいっつも人のせいだな。 どうしたら直るの?? その性格。 ずっと、オレに支障が出なかったから見過ごしてきたけど、それがいけなかったんだな。 今物凄く後悔してるわ。 猛省ってこういう事をいうんだな」
どうしても嫌味を言わなければ気が済まず、本題の前に憎しみの言葉を前置くと、
『は?? 喧嘩売る為に電話してきたの??』
電話の向こうで『チッ』と真琴が舌打ちをした。
「イヤ。 ちょっと真琴に聞きたい事があるんだけど・・・」
意味のない事をしているのかもしれないが、じっとしていられなかった。
真琴を避けている場合ではない。
美紗の手を、握りたい。