漂う嫌悪、彷徨う感情。
「違います!! 本当に違うので、真琴ちゃんには外にワタシがいる事は言わないでください!! 絶対に!!」
この場から逃げようと駆け出した足が縺れ、その場に倒れ込む。
「・・・早くて浅い呼吸繰り返している人間が走れるわけがないでしょう」
そんなワタシを日下さんが抱き起した。
「お願いですお願いです。 見逃してください」
親切そうに見える日下さんが、本当に親切な人であって欲しいと願いを込めて懇願する。
日下さんは真琴ちゃんの彼氏。 怖い人なのかもしれない。
だけど、自分の力で逃げる事さえ出来ないワタシは、頭を下げる以外ない。
「『見逃す』って何を?? どうしたの?? あの家で何かあったの??」
切願虚しく、日下さんはワタシを解放してはくれなかった。