漂う嫌悪、彷徨う感情。
入って来たのは、紙袋を持った美紗だった。 紙袋の中身はおそらく、一昨日買ったおみやげのまんじゅうとせんべいだろう。
オレに気付いた美紗と目が合う。
「おはようございます、佐藤さん。 早いですね」
美紗がオレに挨拶をした。
ちょっとビックリした。
ずっと美紗に避けられていたから。 オレから話しかける事はあっても、美紗がオレに声を掛ける事などなくなっていたから。
「あ・・・おはよう。 休んだ分の仕事、やらなきゃと思って・・・」
驚きと嬉しさで声が裏返ってしまった。
「ワタシもです。 話しかけてすみません。 続けてください」
美紗は『もう喋りません』とばかりに、左右の人差指を口の前で交差させると、ペコっと頭を下げながらお茶台の方へ掃けて行った。
旅行に行く前と明らかに様子が違う美紗。
何かが吹っ切れたと言うか・・・。
あの旅行で何かがあった事は、一目瞭然だった。