漂う嫌悪、彷徨う感情。
美紗の席はオレのデスクと離れたところにある為、会話はない。
パチパチとキーボードを叩く音だけが響く所内。
そうこうしていると、始業時間が近づいてきて、次々と社員が出勤してきた。
「おはようございます。 2日間、お休みありがとうございました」
美紗が同じ業務を請け負う事務員さんたちに挨拶をしながら頭を下げた。
しかし、新しい彼氏と温泉旅行帰りの美紗に、周りの風当たりは以前に増して強くなっていた。
美紗の声掛けが聞こえなかったかの様に、美紗の存在が見えていないかの様に、完全無視をされる美紗。
そんな美紗が買ってきたおみやげに、全員気付いていたはずなのに、美紗を嫌忌する社員たちは手を付けず、昼休みになっても大量に残っていた。
「・・・美紗、みんなが喜ぶと思って買っただろうに・・・」
昼休み、社員たちがランチに出払った事務所で1人、お茶台に乗った温泉まんじゅうを見つめる。
箱を手に取り、側面に目をやる。
「明日までかぁ・・・」
思いの外、温泉まんじゅうの賞味期限は短かった。