漂う嫌悪、彷徨う感情。

「あ、ごめんなさい。 てゆーか、だったら揺らさなきゃいいじゃないですか」

力み気味の腕をそっと解きながら言い返すと、

「あんだけオレに、何か汚いものでも見るかの様な視線を飛ばして嫌っておいて、ちょっと意地悪し返したくらいでコレだよ」

日下さんに嫌味を返された。

「・・・すみません。 ワタシ、降ります」

正直、精神的に参ってしまっている今、初対面の人間にまで攻撃されて平気でいられる程、ワタシの心臓は鉄壁ではない。

日下さんの背中を滑り落ち、地面に足をつこうとすると、

「拗ねるし。 女子ってホント、面倒臭い」

今度は日下さんの方が腕に力を入れ、ワタシを自分の背中に押し戻した。

日下さんは、ワタシの身体を気遣って、ワタシを歩かせようとしないのだろう。

「もう大丈夫なのに・・・すみません」

正直、呼吸はだいぶ楽になっていた。

「日本人って、『すみません』と『ありがとう』の使い方おかしい人多いよね。 今は『ありがとう』を使うべき。 そっちの方が言われて嬉しいし、言う方も気持ちいいでしょうが」

日下さんがワタシをおぶり直して歩き出した。

「・・・ありがとうございます」

「You bet!」

「日下さん、外国人??」

「純日本人。」

日下さんが『ふっ』と息を漏らして笑った。

確かに『ありがとう』の方が嬉しいし、心地よい。
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