漂う嫌悪、彷徨う感情。
「・・・・・・」
日下さんの言葉は正しく、反論の余地もなかった。
「・・・ねぇ美紗ちゃん。 『結婚やめよう』なんて思ってないよね?? 加害者の家族は加害者じゃないよ。 ねぇ、初っ端からオレを避けたのも、オレが真琴の彼氏だからでしょ」
日下さんが鋭い視線を向けてきた。 日下さんには何でもお見通しなのだろうか。 だけど・・・。
「・・・もう遅いです。 『結婚出来ない』って言って逃げてきてしまったので」
ワタシは今、『考え中』ではなくて、既に決断を下した後だった。
「どうしてそんな突発的に結論出しちゃうの??! それでいいの?! 結婚したいくらいに好きなんでしょ?! 彼の事!!」
日下さんがワタシの肩を掴んだ。
「『加害者の家族は加害者ではない』。 それは分かってます!! 分かっているけれど、日下さんがワタシの立場でもそう言えましたか??! 部外者が善人ぶって、被害者に肩入れして加害者家族を攻撃するのはどうかと思います。 だけど、被害者は・・・被害者の気持ちはそんなに簡単に割り切れないんですよ!! 怖くて仕方がないんですよ!! 今は優しいけど本当は・・・って、そんな事思いたくないのに疑ってしまうんですよ。 そんなワタシと結婚して、勇太くんが幸せになれるわけないじゃないですか!!」
肩に乗っていた日下さんの手を振り払って立ち上がった。
もう、日下さんに話す事は何もない。 全部話した。
日下さんは、中学時代のワタシの話を100%で聞いてくれたけれど、勇太くんと結婚したくて、結婚後の生活の夢まで見ていたのに、それを自らの手で壊した今のワタシの悔しさを理解してはくれないだろう。