漂う嫌悪、彷徨う感情。
「・・・・・・」
さっきまで大声を出していたくせに、一言も出ない。 返事が出来ない。
『美紗ちゃんに、自分をいじめた人間の親の世話をさせられますか??』
オレは美紗に、残酷な事を強いろうとしているのだろうか。
オレは、美紗を幸せにする事は出来ないのだろうか。
『漂っているもの自体をどうにか出来なくても、身動きは取れる』
オレが動いて美紗を苦しめる事にはならないだろうか。
思考が定まらず、やるせなさで身体に力も入らなくなり、和馬の肩を握っていた手もダラリと下に滑り落ちた。
その時、
「あ、美紗ちゃん」
和馬がオレ越しに美紗を発見した。
「え?!!」
振り向くと、一斉に出入り口に向かって歩いてくる社員の人波の中に、美紗がいた。
美紗の前には、これから飲みに行くであろう、岡本たちが歩いている。
今日はノー残業DAY。 全員が同時刻に退社する日。
和馬・・・なんでこんな日に。
『美紗や岡本たちに見つかる前に和馬をここから出さなければ』と再度和馬の肩を掴み、その場を離れようとした時、美紗と目が合った。