漂う嫌悪、彷徨う感情。

人と人の間を縫ってこっちに駆けてくる美紗。

そんな美紗に、岡本たちも気が付いた。

オレらの方に走って来た美紗は、

「すみません。 勝手に腕組みます。 ごめんなさい」

と、オレではなく和馬の腕に絡みつくと、

「このままワタシと一緒に会社を出てください。 お願いします。 変な事に付き合わせてすみません」

『え?? どういう事??』と困惑している和馬を連れて会社の外に出て行った。

美紗が、みんなが見ている前で嘘に嘘を重ねた。

和馬を自分の浮気相手と見せかけ、捏ね上げた。

みんなは美紗の嘘を事実だと確信しただろう。

オレには嘘だと分かる。 分かっている。

だけど、目の前で他の男と腕を組み、身体を寄せる美紗に、怒りも哀しみも混ざり合う何とも形容し難い感情が脳内を駆け巡り、ただただ辛く苦しい。

「・・・ないわ。 浮気相手を会社に迎えに来させるとか、まじでないわ」

茫然と立ち尽くすオレの隣に小田さんがやって来て、美紗の後ろ姿を睨み付けた。

「佐藤、やっぱ飲みに行くぞ。 強制連行」

岡本もオレの傍に来て、勝手にオレの肩を組んだ。

美紗と和馬の光景にデカいダメージを受けてしまい、なんか物凄くしんどくて、飲みに行かなかったところで和馬とどこかに行ってしまった美紗と会話する事は不可能だし、

「・・・行くわ」

もう全部が嫌になり、全部がどうでもよくなって、飲み会を断る行為でさえ億劫になった。
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