水色の夢を、キミと。
 





聞いてない。
聞いてない。



――――聞いてないよ、朝日。




走って走って走り抜けて。
信号待ちがもどかしくて。



街を歩いている人に変な目で見られても、
近所の商店街の人に声をかけられても。



ただ、走っていた。






「あれ、夏音」






朝日の家の前に着くと、もう引越しのトラックが来ていて。


朝日は、きょとんとした顔でこっちを見ていた。





……気がつくと、涙が溢れていた。






「なんでっ……なんで言わないのぉ、朝日……! わたし知らなかったよ……! ねえなんで……」



「……夏音」






その場にペタンと座り込んで泣き崩れるわたし。

その私の頭をポンポン、と撫でると朝日は言った。






「おれ、でっかくなったらすげーピッチャーになって、それで甲子園に出るから」



「……もう、なんかいも聞いたよっ……」



「そしたら甲子園に来て、応援してよ」






なんか、いつもと立場が逆みたいだ。

いっつも朝日をなだめてるのはわたしなのに。






「……いかない」






ふいに強がりの言葉が出てしまった。
なんでこんなときに出てくるんだろう。






「夏音のバーカ。おれだってさみしいんだよ」






座り込んでいるわたしをそっと、その腕でぎゅっと包んでくれた。


それでも泣き続けていると、朝日も泣いているのか震えが伝わってきて。






「……いつもみたいに……男なら泣くな、って……言わないのかよ」



「言わないよ……。お互い様だもん……」



「おれさ、絶対戻ってくる。この街に」






朝日はすくっと立ち上がって、そう宣言した。






「うん……」



「じゃあな、元気でいろよな」






お互いに手を振りあって、朝日は家の中に消えていった。

ケンカをしないで朝日と分かれるのはいつぶりだろう。



わたしはずっとその場に座ったまま、しばらく動けずにいた。





 
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