恋の歌が響くとき
 
流行りのラブソングはよく、新しい恋に胸を躍らせる女の子を描いている。


「彼を見ているとトキメキが止まらない」「こっちを見てくれるよう頑張ろう」と街を歩けばどこからか必ず聴こえてくるその歌詞に、私はあまり共感できたことがない。


それはもちろん恋をするのはいいことだし、世界だって輝いて見えはする。けれど私の場合、恋とは魔法のかかった毒リンゴそのもので、甘い色をしたそれを一度かじってしまえば後は底の見えない暗闇に落ちていくだけだった。


実る余地のない不毛な恋。


消えていくのをただ待つ色のない恋。


おおよそこんな恋をしている私は世界が輝いて見えることなんて滅多にない。


苦しいと嬉しいの境界線をぐるぐる辿るだけのそれを「素敵」と呼べるほど私は大人じゃなくて。

 
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