恋の歌が響くとき
「空?!」


嘘だどうしてこんなところにいるんだ。軽いパニックを起こし始めた私に構わず空が無作法に距離を詰めた。


「空、ほ、補講はどうしたの?」
「教室出ていったとき零の様子がおかしかったから追いかけてきたんだよ。ていうか零、お前……すげぇ綺麗に歌うんだな」


ぼんやりと、まるで好きなアーティストでも眺めているかのようにこちらを見つめる空から慌てて視線を反らし、手にしていたアコギを机に立てかける。い、一体何なんだこのバカ空は。


「な、なに言ってんの。ていうかちゃんと補講受けなきゃダメじゃん。また凛に怒られ――」
「なあ」


不意に正面から降って来た真面目な声に、はっと顔を上げた。黒と茶色が混ざったような澄んだ瞳の中には、私の間抜けな顔が映っている。
 
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