恋の歌が響くとき
「そりゃ歌ってんだから熱いに決まってんだろ!俺らだって我慢してんだ。文句言うな」
そんな反論を一刀両断したベース兼リーダーの「川瀬 空(かわせそら)」は長めの前髪を邪魔そうにかき上げて、近くに置かれたスポーツドリンクを雑に飲み干した。
はあ……さすがは我が校きってのイケメン空くん。飲み物を飲む仕草すらかなり様になっている。
「まあまあ、落ち着きなって二人とも。少し休憩にしよ」
そう言って柔らかい笑顔を浮かべた甘口プリンスことドラムの「高河 那奈(こうがなな)」は手にしていたスティックを器用にくるりと回して座っていた椅子から立ち上がった。
確かに少し休んだ方が――ってうわ、もう昼前なのか。
壁から下がる堅苦しいクラシック時計を横目に、小さく息をつく。これは昼休憩でも挟んで頭と体をクールダウンした方がいい。那奈の言葉に賛成の意思を示して、肩から下げていたギターをスタンドに立てかけた。今日は朝からぶっ通しで練習してたからなあ。さすがに疲れた。
「仕方ねぇ。この際、昼飯にするか」
「やったー!じゃあ空、昼の買い出しにいこっ」