恋の歌が響くとき
「今の歌……聞いたことないやつだったけど、バラードだったよな」
「今朝たまたま聴いてたから……その、うん」
「あのさ――今更だけど零は好きな奴とかいるの?」


私の隣に座り、アコギを手に取った空は慣れない手つきで音を鳴らした。


「きゅ、急に何?」
「いや、なんつーかさ。歌ってるとき悲しそうだったから、誰かを想って歌ってんのかなって」


空って普段はどっか抜けてるけど、そういうところは察しがいい。隣の黒髪にバレないよう少し距離をあけて、最大限に言葉を濁す。


「別にそういうんじゃないよ。バラードって悲しげに歌うものじゃんか」
「まあ、そうだけど。っていうか俺の質問に答えろよ」

 
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