素直の向こうがわ

１．あんたなんか大っ嫌い

「ここにいるのはアンタたちだけじゃないんだ。静かにしろよ」


突然怒鳴られて、唖然としてその声の主を見上げる。危うく手からポッキーが落ちそうになった。


「は？　っていうかあんた誰」


せっかく今盛り上がっていたところなのに、それに水を差されて腹が立って。そのうえ、クラスメイト全員が揃っている教室で怒鳴られて、そのいたたまれなさに負けじと睨み返してやった。


「俺が誰かは、今論点じゃない。とにかく、少し静かにしろ」


怒鳴っていたと思ったらすぐに無表情になって、その銀縁眼鏡の奥の目が私たちを蔑むように見下ろしている。
でも、あっという間にくるりと背を向けた。


「ちょっ――」


その目があまりに冷たくて、それがものすごく私たちをバカにしたもののように見えて、思わず立ち上がり声を上げた。


「フミ、やめときな」


今の今まで一緒にバカ笑いしていた神崎薫（カンザキ　カオル）に腕を引っ張られる。


「でも！」

「いいからっ」


そしてもう一人、山口真里菜（ヤマグチ　マリナ）が『周りを見ろ』と言わんばかりに目配せをした。

その目に促されて、教室を見回してみる。