素直の向こうがわ


「えーーっ?」


二人が、特に薫が声を張り上げた。


「うるさいって。もう自分でもびっくりなんだから」


私は、観念してこの気持ちを打ち明けた。
こんな風に自分の恋の話をするなんて、これまた初めての経験だ。
照れを隠すようにアイスティーのグラスの中の氷を意味もなくかき混ぜる。


「……やっぱり遠足マジックか……」


真里菜がしたり顔で腕組みしながら呟く。今となれば、それはあながち間違ってはいない。

多分、あの日からだ。河野が違って見えたのは。


「でも、なんかいいじゃん、そういうの。ちゃんとフミが恋してるって伝わる」


薫が優しげにそんなことを言うものだから、私は益々照れてしまう。


「最初の出会いが最悪なほど恋に落ちるってさ、少女漫画のてっぱんじゃん。あれってやっぱり本当なんだね」


真里菜が私の顔を覗き込んで来る。
何を言われても言い返す術がない。多分、どれもこれも間違ってない。


「がんばんなよ」


頑張れと言われても、何を頑張ればいいのだろう。

好きだということをずっと私の中で認められなかったのは、どう考えても河野に私を女の子として見てもらえるわけがないっていうのがあったから。

いくらなんでも私は最悪過ぎだ。

あの真面目眼鏡が私のような女を好きになるわけがない。
あんな風に正しさをそのまま形にしたようなまっさらな人が、私のような真っ黒な女を……。


今更そんな分かり切ったことを認識して、一人また落ち込んでしまう。

そんな私の表情を察してか、薫がぼそっと呟いた。


「人を好きになるのは自由だよ。好きになっちゃいけないなんてないんだから」

「うん……」


そうだ。河野がどうかなんていいんだ。私が好きなんだから。
それだけでいい――。


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