素直の向こうがわ


そう思えたら、少し肩の力が抜けた。

自分がどう思われていようと好きになってしまったものは仕方がない。
河野がどう思っているかは問題じゃないんだと思えたら、河野を好きだってことだけに専念出来た。

河野に何かを望むわけじゃない。


私が河野を好きだっていうだけの話。


そう心の中をいったん整理出来ると、講習の時たまに顔を合わせても自然に振舞えた。会えることを喜べた。

そんな片想いは、辛いことなんてあまりなくてただ楽しかった。


――何も望まない。


この言葉は、自分を楽にする呪文のようだ。


2学期が始まる頃には、それまでとは考えられないほど河野と普通に喋ることが出来るようになっていた。

多分、『普通に喋れるクラスメイト』というポジションくらいにはなれたんじゃないかと思う。
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