素直の向こうがわ
2学期の始業式の日、私は朝からどんなに引締めようとしても顔がにやけてしまった。
隣の席は河野だ。
同じ授業の時は近くにいられる。お昼も、近くにいられる。
「おはよう」
こんな挨拶も普通に出来る。
これまで、何をそんなに意地を張っていたんだって自分でも不思議になる。
「おはよ」
無表情には違いないけれど、これが河野の顔なんだと思えば落ち込みもしない。
それに、以前の無表情とは少し違っていて『冷たくない無表情』といった感じだ。私の中ではそういうことにしている。
体育館での始業式を終えて教室に戻って来て席に着くと、私は早速河野に声を掛けた。
「さっきの挨拶、ちょっと硬いんじゃない? 生徒会長って言えば学校の顔なんだから、もう少しなんとかならないの? 笑えとは言わないまでもせめて微笑むとかさぁ」
「うるさい。あんなところでヘラヘラする必要はない」
「誰もヘラヘラしろなんて言ってないの。親しみやすさっていうか、一見真面目そうに見えて笑うと笑顔が爽やかっていう方が生徒会長としては萌えるんだけど」
「もえる、ってなんだ」
会話が二往復してる。
私は心の中でガッツポーズをした。
こうやって他愛もないことを喋れるだけで心の底から嬉しいのだ。