素直の向こうがわ



「ほら、私自分の作ってるし、一人分も二人分も全然変わらないから。だから、その……」


口から出てしまった言葉はもうなかったことには出来ない。だからこうやって必死で言い訳じみたことを捲し立てるしかなくなって。

私って、この前といい今といい無意識のうちに積極的なことばかり言っている気がする。

河野を好きになってから、知らない自分を次々と発見する。


普通に考えれば、これってかなりアピールしてることになるよね。


考えれば考えるほどに自分が怖くなる。


「……ちょっと言ってみただけで、必要ないならいいんだけど……」


でも、ここで最後のだめ押しは出来ない。本当に嫌がられたら悲しいと、結局臆病な私が顔を出す。


「……あ、じゃあ」


河野が少しの間のあと、「よろしく」と言った。


「え!? う、うん、分かった。お弁当箱、あとで食べ終わったら貸してね」


自分で言いだしておいていざ実現したら壊れちゃうんじゃないかってほどに心臓がバクバクしてる。
心の中では盛大に花火が打ち上がっていた。

毎日自分の作ったものを食べてもらえる。
そう考えただけで飛び跳ねたくなる。
堪えてもニヤニヤしてしまいそうで、私は必死に顔をしかめた。


明日からのお弁当のメニューどうしようかなんて頭の中で考えを巡らせていたら、体育祭実行委員は決まっていた。
一人浮かれた私は、別世界に行ってしまっていた。


完全に舞い上がっていた。


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