素直の向こうがわ
それからは、毎日作っていたお弁当にも気合が入った。
前の夜から仕込みをした。
おかずを一品増やした。これまでより手の込んだおかずにした。
味はもちろんのこと見た目も重視した。
でも、あまりに気合いを入れ過ぎたものを渡すと私の気持ちがバレてしまいそうなので、自分が思い描く一歩手前の状態で完成とした。
誰かのためにこんなに何かを考えたことなんて初めてかもしれない。
一週間分のメニューを考えるのがとても楽しくて。
少しでも私のお弁当を美味しいと思ってもらえたら、このお弁当で元気が出たら……。
そんな思いをお弁当に込めた。
「ありがと。美味かった」
食べ終わってお弁当箱を返してくれる時、ぼそっと紡がれる言葉。
眼鏡の奥の目が少しだけ、ほんの少しだけ優しくなるような気がするのは私の願望だろうか。
「なら良かった」
こんなやり取りにも心躍るけど、あからさまに笑顔を振りまくことも出来なくてクールに答える。
お弁当を毎日渡すなんて意味深な行為に見えなくもない。
だけど、近くの席のクラスメイトたちは不思議そうに見ていながらも何も言って来なかった。
おそらくそんなことに興味をもつ暇も、そもそも関心もないのかもしれない。
でも、あの二人だけは違った。