素直の向こうがわ
「お姉さん。いや、奥様と呼ぼうか?」
河野が席にいないのを見計らって、真里菜がニヤニヤしながらやって来た。
「もう、からかわないでよ。余計なこと言わなくていいから。冷やかしもいらないから」
言われそうなことがだいたい予想がついて最初から牽制しておいた。
「でもさ、毎日お弁当作って渡すって相当だよね。フミって本当に好きな人には尽すタイプなのかもね」
薫が腕組して私の顔をまじまじと見ながら言う。
自分でも最近そう思う。
「それもそうだけど、それを受け取る河野もなんかあやしくない? そもそも、嫌いな女からの弁当なんて毎日受け取りたくないでしょ」
真里菜はどうしても河野が私のことを好きだということにしたいらしい。
恋話が大好物な真里菜のしそうな発想だ。
「私の料理は、自分で言うのもなんだけどそこそこ美味しいし、なにより楽だからじゃない?」
私は慌ててそう否定したけど、どうしてももしかしたらそんなに嫌われてはいないんじゃないかって思いそうになる。
自惚れてるみたいだし、そんな期待して傷付くのも嫌だから自分で懸命に否定しているけど。
でも、そんな毎日が本当に楽しかった。