素直の向こうがわ
この日のお昼休みもいつものようにお弁当を渡そうとしたら、席に河野がいなかった。
選択授業からまだ戻って来ていないのだろうか。
少し待ってみても帰って来ないから、河野の前の席の男子に聞いてみた。
「ねえ、河野知らない?」
「ああ。あいつ体育祭実行委員の集まりがあるから、昼は生徒会室で食べるって言ってたよ」
「そうなんだ。ありがと」
お弁当のこと忘れて行ってしまったのだろうか。
いろいろ準備とかで忙しそうだし、急いでいたのかもしれない。
そう考えて、少し迷ったけれど生徒会室まで届けることにした。
そう決めてはみたもののかなりの勇気を必要とする。
まず、『生徒会室』なんてところは私にとってまったく縁のない場所だ。高くそびえる大きな壁に阻まれている場所に思える。
それに、生徒会の面々なんてどうせ皆真面目ちゃんたちの集まりだろう。
そんなところに私みたいなのが顔出して、河野にお弁当なんて渡したら河野に迷惑になるかもしれない。
でも、お昼ご飯がないのは困るだろうし、せっかく作って来たお弁当を無駄にもしたくないし……。
そう思い直して、自分を励ましながら生徒会室へと向かった。