素直の向こうがわ
じめっとした空気までも乗せた電車内では、少し揺れただけでも気分が悪くなる。
その上朝の車内は混雑しているからか、酸素が薄く感じて息苦しかった。
そして、この睡眠不足。
次の日が遠足だというのに、真里菜の恋の悩みを電話で延々聞かされていた。
その当人に視線を寄せると、気分が沈んでいるかどうかは別として体調的には何の問題もないように見える。
恋愛話というのは、聞いている方が疲れるのかもしれない。
「気分悪いの?」
心配そうに薫がのぞき込む。
「うん、ちょっと。でも外の空気吸えば大丈夫だと思う」
早く外に出たいという気持ちと、目的地に着きたくないという相反する気持ちがこれまた私の気分を重くした。
それでも電車は前へと進み、進んでいる以上は目的地に到着する。
電車が目的地に到着し、駅から出ると既に多くの生徒たちが集まっていた。
私たちのクラスの集団がいるところに向かうと、すぐに頭一つ抜き出ていた眼鏡男の姿が視界に入った。
「これで全員揃ったな。先生に報告に行くぞ」
おはようの挨拶もなく私たちを一瞥した後、淡々と抑揚のない声で眼鏡男が言った。
そのあまりに予想通りの行動に、おかしくさえなってくる。
さっさと歩き出した眼鏡男の後に他の男子が続き、その後ろを私たちがのろのろと付いて行った。