素直の向こうがわ
授業が終わった後、私たちはすぐさま女子トイレに向かった。
「さっきの、何あれ。めっちゃ感じ悪くなかった?」
結局、自習の時間が終わるまでしかたなく黙って席に座っていた。
なんで、あんなヤツの言うこと聞かなきゃいけないわけ?
そんな風に思って悔しかったけれど、アイツの言っていたことは間違いなく正論で。
だからこうやって女子トイレで憂さ晴らしをするしか術がなかった。
「確かにね。氷みたいに冷めきった顔してたよね」
隣に立つ真里菜が鏡を見ながらグロスを何度も重ね付けしている。
「それにしても、あれ誰?」
あの時のアイツの顔を思い出しただけでも腹が立つ。
無表情で人を見下したような目……。
「あんた、それ本気で言ってんの? さっきのマジで聞いてたんだ……」
薫が、鏡越しに信じられないと言うような目で私を見ている。
「え?」
「あれ、生徒会長の河野(コウノ)でしょ。なんでそんなことも知らないのよ」
生徒会長?
そんなものの顔なんて知らない。ましてや名前なんて、気にしたこともない。
「行事のたびに挨拶してるよ」
真里菜までも呆れたように私を見ている。
「挨拶なんてまともに聞いていたことなんてないし。顔なんかなおさら見てない」
「いやいや、そもそも河野はクラスメイトじゃん。このクラスになってもう2か月は過ぎてるけど?」
あんな真面目くん、私の視界に入らない。
とにかく、さっきのことを思い出せば思い出すほどむしゃくしゃしてしまってしょうがない。
「もういいや。今日はカラオケ行こ! 絶叫してやる」
ばっちり巻き上げたはずの髪が少し崩れていて、鏡に映る姿がより自分を惨めにさせた。