素直の向こうがわ
カラオケで無駄に歌い踊ったおかげで、次の日、少しはすっきりとして学校に行くことが出来た。
幸いなことに、”あいうえお”順で並んだままの席では、あの嫌味な生徒会長とも遠く離れていた。松本の『ま』と河野の『こ』では、なんの接点もない。
だから、これまで顔も知らずにいたんだ。
まあ、席が近かったとしても、あんな眼鏡のしかめっ面男、眼中にないけど――。
自分の席に着き、勉強道具のほとんど入っていないカバンを開けていると担任が教室に入って来た。
担任が来たということは、1時間目は英語か……。そんなことをぼんやり考えていると、担任が教壇に立つなり大声を張り上げた。
「授業始める前に、席替えするぞー。もう6月だしな。そろそろ新しい顔を覚えたいだろ? 席替えは学生の一番の楽しみだもんな」
満面の笑みの担任と何の反応もない生徒。
なんであんたが盛り上がってんのよ。この時期にそんなことでワクワクする奴なんていないっつーの。
冷めた目で担任を見つめていると、くじでも入っているのかお菓子の缶のようなものを教壇にドンと置いた。