意地っ張りの涙(仮)
私の動きを封じるように夏目に手を取られてしまったから……。夏目の顔を見ようにも恥ずかしくて見えない私は下を向いたままでいるしかなかった。

「ちょっと…手を……離しなさいよ?」

何故か強く言えなくて、小さくなる声に自分で驚いた。夏目は、反対にぎゅっと力を込めて私の手を握る。

「……反則だろ?急に素直になるとかさ…」

聞こえるか聞こえないかの微妙な囁きで夏目が呟いた。何が言いたいのかと少し顔を上げて見てみれば顔を逸らして目元を覆う夏目がいて……。私まで顔が熱くなってくるのがわかった。

「可愛すぎんだろ…」

小さく零れた言葉は私には聞こえなくて

「何か言った、夏目?」

気になって聞いたものの

「いっ、いや、気にしなくていいよ。まだいい!」

「まだって何よ?」

そう聞き返しても教えてくれなかった。そのままグイッと手を引かれながら山登りを再開したのだった。
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