恋トレ~この恋お手柔らかに~
私は立ち上がるとハチを呼んだ。といっても返事などないが・・・・・・

「ハチ~~。どこかな~~ハチ~?」

こういうときが一番ヤバい。

どこかで悪さをしている確率が高いからだ。

「ハチ~いたいた。こっちおいで~こっちって・・・あ~~!!ちょっとやめて~」

私の前にひょっこり現れたハチは私のブラを咥えて動きを止めたが

私の声に驚いたのか、ブラを咥えたまま逃走。

「ちょっと~ハチ。返して~。それ私の大事な物なの」

洗濯かごに入れておいた下着がまさかハチのおもちゃになるとは・・・・・・

しかもこのブラ結構お高い物だった。

たまたま用事がありデパートに行ったのだが、下着売場のマネキンの着用していた

黒地に鮮やかな花柄のブラに一目惚れした。

普段買う物より倍の値段だったけど、彼・・・いや元彼と初めて旅行を控えていた私は

清水の舞台から飛び降りる気持ちでこのブラとショーツを買った。

だけど今はもう見せる相手もいない。

失恋したばかりの頃は下着を見るだけで落ち込んでたけどハチが家にやってきて

からは失恋の悲しさに浸る余裕すらなくなった。

が、しかしハチにかじられていいわけがない。

「ね~お願い。ハチ、返して?ね?」

ハチはブラを咥えたままローテーブルの下に隠れ、上目遣いで私を見ている。

私はハチの目線まで四つん這いになってしゃがみ、手をのばすと

ブラの紐を掴んだ。だけど犬の噛む力はかなり強くてちょっとやそっとでは

離そうとせず綱引き状態だった。

でもこのままだと綺麗なレースが傷んでしまう。

「ハチ~~。安いのなら諦めるけどこれは本気で無理!返して~~」

犬に言ったところで何を言ってるかなんてわかるわけがないってわかってるけど

言わずにはいられなかった。

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