雨のち虹 ~カタツムリの恋~
最初にキスをした男が
塾の先生だった。
中学1年の私にキスをした先生は、今だったら大問題。
あの頃、家に帰るのが嫌でお母さんに頼んで塾へ行かせてもらった。
余裕のない家計の中でお母さんは私にちゃんと愛をくれた。
だから、お母さんが抱きしめてくれなくても、お母さんを恨んだことはない。
お母さんは私の為に夜遅くまで働いているって理解していたつもり。
だから、塾から帰った私が泣いていても気付かないお母さんを私は恨まない。
机に置かれたお金で髪を切りに行く私が、バッサリと髪を切っても気付かないお母さんは…
ただ疲れていただけ。
ちゃんと愛してくれていることは伝わっていた。
だけどね、
誰かに抱きしめて欲しかった。
頭を撫でて欲しかった。
髪切った?って聞いて欲しかった。
だから、私は塾の中で一番お父さんに似ていた先生に近付いた。
落とすのは簡単だった。
涙を浮かべて、先生をじっと見た。
発達の早かった私の体のおかげもあるけど、先生は中学1年の私を好きになった。
お父さんに似ていたのは、声。
優しい声だった。
だから、キスをされたときは涙が止まらなかった。
そんな愛が欲しかったんじゃない。
そばにいて、私をただ優しく見守っていて欲しかっただけ。
寂しい夜に電話をかけてくれるだけで良かった。