偽王子と嘘少女
「彼氏…いたんだね」
切なく笑い、この場を後にする男。
何を悲しくなっているんだ、あいつは。
まったく、ナンパなんてしなければ、そんな思いを感じることもなかっただろうに。
「大丈夫か、柊?」
取り残された彼女のそばに駆け寄り、そっと優しく声をかける。
きっと怖い思いをしているはずだから、傷つけてはいけない。
「そうだね…藤堂くんが、来なければ大丈夫だったかもしれないね」
俺と目の焦点を合わせず、ただ一点を認めたまま話す柊もまた、どこか切なそうだった。