偽王子と嘘少女
「だからもう、あいつで苦しむな」
「紫水くんっ…紫水くん……」
ただ好きな人の名前を連呼しながら、別の男の胸で泣く私。
客観的に見たら、ものすごく最低だよね。
藤堂くんに対しても、紫水くんに対しても。
「ごめん、もう…大丈夫だから。ありがと」
冷静になった私は、胸から出ようとする。
だけど、一度離れたその腕は、後ろから抱きつくようにして、もう一度私に絡み合う。
「……っ!? と、藤堂くん?」
「………行くな」
「えっ」
腕がきつくなって、少し苦しい。
だけど、そんなことが気にならないくらいに藤堂くんの心音が聞こえる。
私も同じように高鳴っているのかな。